1. HOME
  2. 世界の起業家とライフスタイル
  3. イタリアのスローフードとサスティナビリティ
世界の起業家とライフスタイル

イタリアのスローフードとサスティナビリティ

イタリア発祥の食への考え方「スローフード」。海外では食のこだわりにあるひとびとに愛好家がいます。
近年になり日本でも除々に認知度を増してきており、日本のイタリアンレストランでもスローフードの取り組みが進められています。

ただ、多くの方にとってスローフードがどういったものかはまだ知られてはおらず、「ファストフードなら聞いたことがあるけれど…」という方も多いはず。

スローだからその反対だけれど、ゆっくり食べること?
本件では、その由来から日本での近年の広がりまでを紹介していきます。

今さら聞けない、オーガニック認証ってなに?そのトレンドや賢い買い方は?

目次

スローフードとは?

日本スローフード協会では、次のように紹介しています。

スローフードとは、私たちの食とそれを取り巻くシステムをより良いものにするための世界的な草の根運動です。郷土に根付いた農産物や文化を失うことを始め、ファストライフ・ファストフードの台頭、食への関心の薄れを憂い、1989 年にイタリアで始まり、現在160カ国以上に広まっており、国際組織でもあります。

​「おいしい、きれい、ただしい(Good, Clean, Fair)食べ物をすべての人が享受できるように」をスローガンに、食を真ん中に置いた様々なプロジェクトを数々持っています​。​

この内容をもう少し紐解くとスローフードの意味する所がよく見えてきます。

運動の起こり

1989年の本格始動に遡ること3年前、ローマのスペイン階段にマクドナルドがオープンことへの反対運動がスローフードの起こりでした。まさにファストフードへの反対という直接的な行為が由来となって生まれたものなのです。

当時、食文化雑誌『ゴーラ』の編集者カルロ・ペトリーニが同志を集めて「私たちはスローフードを望みます!というスローガンを掲げたのが、”スローフード”という言葉のはじまり。残念ながらマクドナルドの進出は止められなかったものの、以降運動は続いていくことになり、1989年にスローフードマニフェストが調印され、国際的な運動の本格始動に繋がります。

この一連の流れは、ファストフードにイタリアの食文化が食いつぶされる、という危機感が運動に繋がったものだそうです。イタリア人は特に自国の食を愛しており、ある意味保守的な傾向が強いと言われていますが、そういったこともイタリア発祥でスローフードが始まった一因でしょう。

スローガン

続いて、掲げられている3つのスローガンについて詳しく見ていきましょう。
「おいしい」では「美味しく、風味があり、新鮮で、感覚を刺激し、満足させること」が定義されており、ここでは味覚で感じる美味しいものだけではなく、伝統的な食事によるもの、地域の食材を消費した地元の生産者を守るものといった意味も含んでいるそうです。

「きれい」では「地球資源、生態系、環境に負担をかけず、 また、人間の健康を損なわずに生産されること」が定義されており、人間、環境の双方に負荷をかけないもの。
「ただしい」では「生産から販売及び消費にわたって、全ての 関係者が適正な報酬や労働条件にある、 社会的公正を尊重すること」が定義され、作る人も大切にする考え方をもつもの。

これらを総合すると、食における生産者と消費者、環境のすべてを大切にする概念といえるでしょう。目の前の料理の味だけに価値を見出すのではなく、その料理の背景にあるものにまで目を向けて価値を見出す考え方です。

ここまで見ると、ファストフードの意味する「手早く食べられる」のに対しての反対だけではなく、「安い」「便利」の裏にある「コスト削減を優先した大量生産のための不明瞭な食材の調達や調理・加工」といった面へのアンチテーゼも含んだ意味となっていることがわかります。

具体的な活動内容

スローフードの取り組みをいくつか具体的に挙げていきます。

・味の箱船
1996年から行われている「味の箱舟」プロジェクトでは、大量生産による「食の均質化」という名の大洪水から、美味しい食品や食材を「味の箱舟」に乗せて守るというコンセプトで、未来の子供たちに残したい貴重な食材や食品を発掘する作業が進められています。

この活動では、スローフード協会のメンバーたちが、各地で農畜産物、伝統漁法、加工食品などの調査を行い、現地のものづくりを取材した「箱舟」という雑誌を通じて、守るべき食材や食品の価値を一般やマスコミに伝えています。さらに味の箱舟に認定された品目のなかで、特に緊急な支援を必要とするものに対して販売方法を企画・助言し、小さな生産者や加工業者が作る伝統的な食品の市場進出を促す活動を進めています。

現在、世界では5,500以上の食品が登録されています。日本では、2021年11月4日に新たに10品目が追加され、国内での登録は74食材となりました。

・スローフードの情報交換
スローフード協会では、世界中の会員に送られている季刊誌「スロー」を通じて、スローフードの価値や考え方を伝える活動を進めています。

また、イタリア風居酒屋であるエノテカから発展した庶民的な食堂である「オステリア」のガイド本の発行を行っています。「オステリア」では、地元のワインがそろっている一杯飲み屋や郷土料理を提供している素朴な食堂、地元の農業に密着したアグリツーリズモ、ワインセラー、郷土料理のレストランなどを紹介しています。

日本におけるスローフードの広がりについて

さて、これまでに紹介したように世界的に展開されているスローフードの運動ですが、スローフード日本の発足は2016年と比較的最近です。

そういったこともあり、日本でスローフードといった単語が広く浸透するにはまだ時間がかかる印象です。実際のところ、スローフードの取り組みを進めています、と掲げている店はまだ多くはありません。

しかしながら、スローフードが含んでいる概念には既に日本でも一定浸透しているものがいくつかあります。

「伝統的な食文化の保全」「地産地消」「フードロス対策」「オーガニック(有機栽培)」「フェアトレード」。こういった単語とその取組は聞いたことがあるはずです。食におけるこれらの取り組みは全てスローフードの取り組みといえるでしょう。

そのため、スローフードという単語は知っていなくとも、すでにスローフードの取り組みに触れている方は決して少なくありません。

自然食品を扱うマーケットが増えてきており、地域の食材を取り扱う場も増えていている今。

食のトレーサビリティ対応がされている今。ユネスコに和食の文化が登録された今。いずれもがスローフードに関わる事実です。

山形のイタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」

スローフードに含まれる考え方の1つ、「地産地消」に積極的に取り組んでいるイタリアンレストランの例を挙げます。

奥田政行氏がシェフを務めている「アル・ケッチァーノ」です。同氏は山形・庄内の食材にこだわり、日本の食材を使いながら、イタリア・スローフード協会からも世界の料理人に選出されるなど、本場からも認められる地産地消のリーディング・シェフです。

同氏は山形・庄内の食材を活かすイタリアンを提供しています。庄内の野菜と本場イタリアの野菜は異なるものなので、調理法にも試行錯誤があったそうですが、それでも庄内の食材にこだわるのは、「美味しいものを探したら地元にあった」と地元の食材に惚れ込んだ経緯があったそうです。

そういった考え方を象徴するものとして、同レストランでは、生産者の名前をメニューに付け、彼らをリスペクトするスタンスがあります。

また、生産者の方々もスタッフの一員だと捉えているため、適正な価格で食材を購入することも意識しているそうです。

同氏がいくつかの店を手掛けるのは地域の生産者の販路を広げるという意味合いもあるとのこと。地元の生産者からの調達にあっては、フェアトレードの考え方にも通じるところがあります。

◆アル・ケッチァーノ
https://hitosara.com/chef/34alchecciano.html

南池袋のイタリアンレストラン「GRIP」

地産地消とは異なる観点でフードロス対策に取り組んでいるレストランの例を挙げます。南池袋にあるイタリアンの「GRIP」では、その日に入る食材によってメニューが決めることで、コスト削減だけでなくフードロス対策に取り組んでいます。

地方の生産者と直接コミュニケーションすることで、おいしい野菜が、いつ、どのくらい送ってもらえるのかを把握し、それに合わせたメニューを組むそう。生産者からすれば、自分の提供できる限りの量で済むので、発注数に対応できるかどうかを気にしなくてよくなるメリットがあります。

グループ内での食材のシェアも行い、コスト削減や食品ロス削減に取り組んでいます。
また、同レストランでは、産地から届くオーガニック野菜や自然派ワインが人気。これらの産地の食材を扱うことができるのも、各産地でオーガニックに取り組む生産者の方との関係性があってのこと。

店が池袋なので地産地消とはいきませんが、そのために、各地の生産者とのやり取りに力を入れて、安全な食材を確保しています。「それぞれの地元で消費しきれない食材は、その食材を珍しいと思う地域に住んでいる方たちへ提供すれば、余って廃棄することもない」という発想で、各地の良質な食材を使用した料理を無駄なく提供しています。

◆GRIP
https://withnews.jp/article/f0220317000qq000000000000000W0ev10301qq000024436A

まとめ

日本におけるイタリアンレストランの事例も紹介しましたが、共通するのは、いずれも料理人と生産者が一体となって質の高い料理の提供に取り組んでいることです。
昨今、消費に質を求める傾向が再び強まっており、モノ、サービスを選ぶにあっては、それが「納得できるものか」という点が重要です。

スローフードは、そこに至るまでに関わる人々も、文化も、自然も大切にされてきた一皿です。多くの方が納得して楽しむことができるのではないでしょうか。
皆さんも質の高い、納得できるスローフードを楽しんでみてはいかがでしょうか。

参考サイト
◆日本スローフード協会|https://slowfood-nippon.jp/aboutus/
◆Mavie|https://lebenaorganic.jp/mavie/slowfood/
◆ITALIAN VIDEO COLLECTION|https://www.ivc-net.co.jp/food/shokuji/slow.html
◆日本スローフード協会 神戸市|https://www.wefeedtheplanet.org/

COLUMN

RECOMMEND