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女性起業家とファッション

経営者や政治家の色彩学的ファッションとは?

皆さんは特別な場に臨むとき、どのような色の服を選ぶでしょうか。
服の色使いには、戦略があります。
自分の見せたい姿に合わせた色を身にまとえば、相手へ印象付けも効果的になります。
ここでは、著名人とそのファッションの色使いについて取り上げていきます。

目次

スティーブ・ジョブズ氏と「黒」

「黒」という色には「威厳」や「カリスマ性」という固有のメッセージがあります。寡黙なのに存在感がある、どの色にも染まらない頑固なまでの個性があるのです。

その「黒」のファッションで強烈にブランドを世界に印象づけたのが、アップル社の創業者であるスティーブ・ジョブス氏です。彼が商品のプレゼンテーションをするときには必ず黒のタートルネックにジーンズ、そしてスニーカーでした。そのスタイルを徹底して貫いた姿は、皆さんにも強い印象として残っているはずです。

彼はいつも同じ服装をしているということが特に取りざたされますが、その中の「黒」という色にも確たる意味が存在します。黒のタートルネックはファッションで言えば特に語るほどのこともない、ごくありふれた平凡なものですが、その黒もスティーブ・ジョブズ氏の手にかかると、黒の持つ固有のメッセージが最大限生かされていました。

スティーブ・ジョブズ氏は、「黒」が持つ刺激的な側面である「秘密主義」や「悪魔的」といった要素をうまく使い、あの笑顔とプレゼン技術、そしてファッションスタイルで自己の主張を巧みに演出していたのです。また、彼の哲学者のような容貌もその効果をさらに強烈なものにしていました。

その結果、彼の存在は唯一無二のものになっていったのです。「黒」のタートルネックしか他に選択肢がない、それ以外の色は考えられないというほどのイメージの一致を貫くことで、アップル社の「Think Different」というメッセージを彼は発信し続けたのです。

「黒」はまた、強いイメージを打ち出すことができる反面、アップル社の商品を前にすると文字通り黒子に徹することができる色でもありました。

スティーブ・ジョブズ氏が商品を持つと、その商品の色が他の色に邪魔されることなく、「黒」を背景にくっきりと浮かび上がり、より美しく輝いて見えるのです。すべては計算し尽されたジョブズ氏の演出方法でしょう。

マーガレット・サッチャー氏と「青」

英国きってのファッションアイコンとして語られる、初の女性首相マーガレット・サッチャー。マリンブルー、真珠、スカートスーツといった女性らしさと社会性を纏う揺るぎない装いは、男性が多い政界の中で自らの存在感を高める彼女の戦略であったとも言われています。

彼女のその躍進ぶりもドラマティックでした。経済が疲弊して「英国病」と呼ばれていた1960〜1970年代の英国に颯爽と登場し、経済を安定させたのがマーガレット・サッチャーの功績でした。 議会に、ほとんど女性がいなかった時代にもかかわらず、英国保守党初の女性党首に当選。

それだけでも、充分に異色ですが、1979年の選挙で経済の競争力強化を公約に掲げて保守党を大勝に導き、初の女性首相に就任しました。以来、強い意思と自信に満ちた決断、そしてエレガントな容貌との相反する要素の組み合わせは、マーガレット・サッチャーを印象づける何よりの特徴となっています。

強烈な反共主義であったため、当時のソビエト連邦国防省機関紙から「鉄の女」と揶揄されましたが、皮肉にも、サッチャー自身がそれを気に入り、その後、あらゆるメディアに取り上げられたため、最も有名なサッチャーの愛称となっています。

その中で、サッチャーが身に纏う保守党カラーのウルトラマリンブルーのスーツ姿は、党大会や首脳会議などで繰り返し世界のメディアのヘッドラインを飾りました。

彼女は服装に対しては堅実かつ実用性を重んじ、ボウブラウスなどのやわらかくフェミニンなデザインを好みながらも、華美すぎない女らしい着こなしをベースにしていました。

男性が多い政界の中で自らの存在感を高める戦略であったとも言われていますが、マリンブルー、真珠、スカートスーツが今もファッションアイコンとして語られるのは、彼女によく似合っており、無理のない着こなしであったこともあるでしょう。

自分に似合う装いとイギリスの保守カラーを組み合わせた戦略がそこにはあります。

ニコラ・スタージョン氏と「赤」

スコットランド国民党の党首にしてスコットランド自治政府首相のニコラ・スタージョン氏は、「北の赤いライオン」の異名をとっています。スコットランドを英国から独立した欧州国家にすべきという考えの持ち主で、2019年12月に行われた総選挙では、スコットランド独立の是非を問う2度目の住民投票実施を公約に掲げて議席数を伸ばしました。

スタージョン首相の人気が高い理由は、スコットランドなまりの論理明快な演説や知的な議論で人心をつかんでいることだけではありません。首相になった2014年以降の、大胆なイメージチェンジに負うところも大きいのです。

以前のスタージョンは、だぶついた上着に幅広のパンツという服装で、冴えない印象でした。しかし党首になったあと、別人のように変わったのです。ブロンドのショートヘア、赤やターコイズなどの鮮やかな色彩を用いた、体の線に沿う七分袖の膝丈ワンピースとジャケット、そして原色のヒール靴。

大衆に埋没する退屈なスタイルから、世界中を魅了する鮮烈で大胆なスタイルへ。

スタージョン首相の変貌は、世界の舞台で勝負しようと決意した女性政治家の覚悟とも見え、スコットランドのイメージまで変化させました。鮮烈な赤色がその異名ともなり、力強い印象を与えます。

メッテ・フレデリクセン氏と「無彩色」

2019年に、デンマーク史上最も若い首相として41歳でメッテ・フレデリクセン氏がその地位に就きました。同氏の装いは、無駄を極力そぎ落とし、シンプルに徹しています。黒ジャケット、白ブラウス、スキニーパンツに、タイトに小さくまとめ上げたヘアが定番です。

時々ネイルやインナーなどに差し挟まれる赤や小さなアクセサリーが温かみを感じさせ、実用重視のクリーンな簡素さと適度な温度感は北欧スタイルの王道といったところでしょう。「黒」がベースカラーとなっていますが、「デンマーク人になるためには黒以外の服は全部燃やせ」と言われることもあるほど、デンマークでは黒の着用率が高いのです。

そこに同じく無彩色の白を合わせる。ボトムは常にスキニーで、ふわふわのマキシスカートなどは出番がないそう。そんな直球のデンマークスタイルを彼女は身にまとっています。

また、年配の女性政治家が好むノーカラージャケットではなく、公式の席では、テーラードジャケットを着ることが多いのが、彼女の若々しいところを演出します。

ドイツのメルケル首相とベルリンで会談した際にも、メルケル首相の白いノーカラージャケットに黒いパンツに対して、白いシャツを合わせた黒のほっそりしたテーラードパンツスーツ姿で、若さと清新さを漂わせていました。

渋い配色のプリントやピンク、オリーブイエローのカラージャケットなども着用していますが、それらが、時として野暮ったく映るほど、メッテのイメージをつくっているのは、無地の黒をベースに白を効かせたシンプルで、普遍的なスタイルです。

北欧的な簡潔さと、実利性、清潔感に絞った着こなしは、新たな時代の指導者にふさわしい虚飾のない、爽やかなクリーンさを伝えるものです。

メルケル首相と「多色」

世界で最も強い権力を持つ女性、といわれるドイツのメルケル首相。常に情勢と周りの空気を読み、適切な言動を取れる人との評で、国内政治家ランキングでも男性政治家を差し置き常に1、2位につき、国民から厚い信頼を得ています。

一方で、彼女の服の装いはメディアからは「制服」とも揶揄される、似たような型のブレザーとズボンに組合せとなっています。ファッション誌の識者からも賛否両論となっていますが、制服風着こなしは、女性のエゴ等邪念は捨て政治家に徹しよう、というメルケル首相の決意の表れ、とみる見方もあります。

そしてそんな首相は男性優位の社会にありながら、多数に支持されている。そんな彼女ですが、お決まりのシルエットの中でも場面と相手に合わせた色使いが注目です。

(1)マクロン大統領との会談

フランスのエマニュエル・マクロン大統領との会談の際は、鮮やかな赤のジャケットで登壇しました。赤はフランス国旗のトリコロールカラーの1色。メルケル氏らしいさりげなく気遣いのあるおもてなしともとれる装いでした。

そういったこともあり、2人は個人的にも親しく、メルケル氏のフランスへの外遊の終わりにはマクロン大統領がわざわざブルゴーニュ地方に招待したこともあるそうです。

両国の友好関係は2人の友情にも裏付けられています。さまざまな出来事に真摯に取り組み、誠実な性格で知られるメルケル氏は、マクロン大統領をはじめ各国首脳から圧倒的に人気がある稀有な人物です。

(2)オランダのアレクサンダー国王とマキシマ女王との会談

ドイツを公式訪問したオランダのアレクサンダー国王とマキシマ女王を出迎えた日には、顔色まで明るくなるような鮮やかなブルーのジャケットを着用していました。

ロイヤルファミリーを出迎える日は、水色のジャケットを着用することが多いようです。メリハリある鮮やかな色味が顔周りを明るく仕上げ、華やかな印象を持たせる色使いは、まさに場の状況を読み、相手に寄り添う色使いです。

まとめ

これまでにいくつかの著名人とそのファッションの色使いをまとめましたが、どれも確固たるマインドがあってのものであることがわかります。
メッセージ性を持った見せ方をするのか、相手に寄り添う姿を見せるのか、特別な場に臨むときの色使いについて、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

<参考サイト等>

黒のファッションを徹底して貫いたスティーブ・ジョブズ|河野万里子|株式会社色彩舎

世界の女性首相たちの「意志あるスタイル」|中野香織さんが教えるフォーマルウェアの基礎知識 vol.18

キャリア女性のお手本!英国首相サッチャーはファッションにもこだわった「美しい政治家」|藤岡篤子のTimeless Style ICONS Precious.jp

デンマーク史上最も若い41歳の「美人首相」メッテ・フレデリクセンは「黒と赤、スキニーパンツ、お団子ヘア」が勝負服|藤岡篤子のTimeless Style ICONS Precious.jp

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